生活文化づくりのシステムコンダクター片山鉄建株式会社
ek広場
2004年2月20日(340号)

■食べもの談議

食べものから旬(しゅん)が消えて久しい。何時の頃からか、温室栽培が先ず野菜・果物の旬を消してしまった。特に果物の無旬化は著しい。いちご・西瓜・メロンなどは、年がら年中お目にかかれる。
しかしやはり旬の食べものは安くて美味い。病人のお見舞いの差し入れに、時々立ち寄る某デパートの果物売り場で、昨年8月に買った林檎は1個が約1,000円であったが、同じ売り場で11月には、1,000円で林檎が5個買えてお釣がきた。
味覚というものも、記憶に残るから不思議である。私は永年芦屋の海岸近くに住んで来たが、子供の頃はまだ大阪湾も美しい海で、芦屋の海岸にも漁師がいて、毎日地引網を引き上げていた。引き上げられた鰯を売り捌く人もいて、早朝から自転車の荷台に積んで、  

『鰯や、鰯や、てて(手のこと)咬む鰯や。』

と怒鳴り散らして売り歩く。5〜6センチ位の小さな鰯が、まだ箱の中で跳ねている。おふくろがそれを買って、生姜醤油でさっと炊き上げて朝食の膳に添えてくれる。
その美味いこと。朝から何杯もご飯のお代わりである。
鰯は読んで字の如く、その鮮度は時間と競争のような魚である。今やそんな新鮮な鰯にお目にかかる機会はなく、あの鰯の味は記憶の中にあるのみだが、その味を今でもはっきりと憶えているから不思議である。
最近は魚も遠海の冷凍物がマーケットなどで安値で売られている。我々の食生活も、大半を輸入品に頼っているのが実態のようだ。食べものが貿易取引で余りに世界中を往き来するのは、どうも正常な姿とは思えない。牛肉がBSE(牛海綿状脳症)で大揺れである。国産牛肉価額の暴騰は消費者にとっても痛手だが、輸入肉に頼る吉野屋をはじめ牛丼店や町の焼肉屋さんは、死活問題である。そして申し合わせたように鶏インフルエンザが続く。この鶏インフルエンザはあひるや豚への感染ばかりでなく、人間への感染死亡例まで報じられている.まるで肉類総嘗めである。
もともと日本人は草食人種で、昔は肉は殆ど食べなかった。動物性蛋白質は専ら魚から摂取していた。ところが肉食人種の欧米食文化が滔々と浸透して来た。特に最近は、ファストフード店やグルメの展開から、一層肉食が進んだようだ。この度の汚染肉騒ぎは、我々の食生活に対する警告とも読み取れる。
  週間東洋経済の2月14日号に東京農業大学教授の小泉武夫氏が、滅び行く和食文化に対して警鐘を鳴らす一文を寄せておられる。それによると、ある食品会社が東京都内の小学生を対象に嗜好調査を行なった。

『学校給食に出してほしいメニューを5品挙げてください。』

1位牛肉、2位ハンバーガー、3位ビーフシチュー、以下カレーライス、フライドチキン、ピザパイ、スパゲッティ、クリームコロッケ、オムレツ、サンドイッチの順だった。日本の子供だというのに和食のメニューが一つもない。今の日本の子供達の食事は、いったいどうなっているのだろうか。
食は立派な文化である。これからの日本を支えていく若い人たちが、日本のすばらしい食文化を捨てて欧米型に移行するのは、それは文化の放棄であり、民族の存在意義は薄れてくる。食事に関わる礼儀、作法、行儀、感謝、道徳や倫理観も希薄になると述べて、氏は警鐘を鳴らしておられる。
食文化もさることながら、地球上の人口爆発も食糧を考える上での大問題ではないか。一世紀100年の間に、30億人から60億人への人口爆発である。人間生まれたからには食べていかねばならない。数年後には中国が、世界一の食糧輸入国になるという予測を新聞で読んだ記憶がある。そこへ天候異変による世界規模の飢饉でも起こればどうなるか。思うだにぞっとする。
我々戦前戦中派は、今でも折詰弁当の蓋についた飯粒を、先ず丁寧につまみ取らねば気が済まぬ。勿体ないが先に立つ。食べ物を大切に思うことは、人間生活の最もシンプルな最も基本的な姿勢であろう。将来日本中のゴルフ場が藷畑にならぬことを祈るのみ。


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