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2004年7月20日(347号)
■スポーツの祭典
連日テレビを見ても新聞を見ても、暗いニュースのオンパレード。よくまあこれだけ嫌な事件が次々と現れるものよと、うんざりさせられる。その中にあってアテネ・オリンピックは、世界中を熱狂の渦に巻き込んだ今年最大のイベントであったことは、どなたもご異存あるまい。特に日本選手団の活躍は、日本中を沸き立たせた。ただ残念ながら、日本でアテネの競技の実写テレビを見ようとすると、夜通し起きていなければならない。普通の生活者ではとても無理だ。私も殆どの競技は録画テレビで見ていた。
たまたま眠れぬままに女子マラソンのテレビは、実写を見ていた。最初は眠くなればテレビを消して寝るつもりだった。ところが見ているうちに、目は益々冴えてくる。次第に選手集団がバラけても、日本の女子3選手は、イギリスの世界記録保持者ラドクリフが引っ張るトップ集団の中で力走している。テレビでは、コースの距離や高低差あるいは温度や湿度の説明なども、刻々と伝えられる。特に高低差は厳しいコースだなと、テレビを見ながら思っていた。
余談になるが、もう20年も前になるか、弊社東京営業所の若手が企画して、皇居一周約5キロの社内マラソン大会を実施したことがあり、私も喜んで参加した。走ってみて驚いたことは、普段は車で何気なしに通り過ぎているお堀端の坂道の、なんときついことよ。坂道の勾配というものは、走って見ないと分からないものだなとつくづく感じたことがある。こんな経験からも、アテネのマラソンコースの苛酷さは想像がついた。
25キロ過ぎだったか、野口みずき選手がスパートをかけた。まだこれから最も長い坂道へさしかかろうとする時点である。私は思わず『えっ』と声を挙げた。マラソンは35キロ以後が勝負どころなのは常識である。前回のシドニー・オリンピックで高橋尚子選手がスパートをかけたのも、確か35キロ過ぎであった。それを25キロ過ぎに、しかも苛酷な長い坂道の始まりにスパートをかけたのには、驚きよりも『無茶するな!』と叫びたい気持であった。後日聞いた解説では、この25キロのスパートは、コーチと打ち合わせ済みの戦術であったようだ。上り坂の得意な野口選手が、体力のあるうちに他の選手を引き離すには此処しかないとの読みだったらしい。テレビを見ていた時、そんな深謀遠慮を知る由もない私は、無茶としか思えなかった。そんな私の心配をよそに野口選手はぐんぐん他の選手を引き離して行く。あっという間に100メートル以上の差をつけてしまった。
しかし野口選手はまだ10数キロを走りおおせねばならない。心配と興奮で、もう眠るどころではない。突如、あの世界記録保持者ラドクリフ選手が映し出された。35キロ過ぎである。確か3番手で走っていたのに、後続選手に次々と抜かれている。見ると足がまともに前へ進んでいない。その映像から1分も経つか経たないか後に、ラドクリフは泣きながら棄権した。これは意外だった。まさかラドクリフが棄権するとは思いも寄らなかった。オリンピックは何が起こるか判らないと言われるが、やはりこのコースの高低差の厳しさが伺える。再び野口選手の画像に変わる。長い坂道を登り終えてはいるが、流石に疲れは蔽えない。やがて給水所で水を取る時、野口選手は後ろを振り返った。2番手のヌデレバ選手が見えたかどうか。
この後は野口とヌデレバの一騎打ちである。他の選手は遥かに離されている。何とか最後まで頑張って欲しい。心の中で『頑張れ。頑張れ。』と叫んではいるが、野口とヌデレバのピッチを見る限り、ヌデレバの方がピッチは速い。案の定ヌデレバは、じりじりとその差を詰めてくる。100メートル余りあった差が、90メートルになり80メートルになる。時々振り返る野口の目に、既にヌデレバの姿が見える。野口も必死に走ってはいるが、ヌデレバのピッチの速さは変わらない。ヌデレバという選手は、マラソンのために生まれたようなすばらしい選手だと思う。幸い野口選手はトップで走り終えて金メダルを獲得したが、ヌデレバ選手のピッチは最後まで変わることはなかった。野口が決勝点の競技場に入るまで、私のはらはらどきどきは続いた。野口選手がゴールインした時、ヌデレバ選手との差は50メートルであった。ゴールインした野口選手の晴れやかな笑顔で私の観戦はおわったが、興奮は収まらず、眠りについたのは2時間ばかり後であった。
オリンピックの起源は、争いを収めるために始められたと言われる。スポーツには嫌厭も憎悪も打算もない。フェアプレイあるのみだ。それを行なう人もそれを見る人も、夢中になれる健全な行為である。日本の為政者諸賢もせめてもっとスポーツを観戦すれば、フェアプレイと新鮮な感覚が持てるのではないか。それにしても日本のプロ野球はどうなるのか。本稿の起稿時点では、オーナー会議待ちの段階である。頑固なおじんオーナーの頭にバケツの水をぶっかけたら、どんなにかスッキリするだろうにな。
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