テルモ(株)の代表取締役会長和地孝(わち たかし)氏の講演録を読んで、大変感動しましたのでここにご紹介致します。テルモ(株)の前身は、1921年(大正10年)に体温計の国産化を目指して、北里柴三郎博士をはじめ医学者らが発起人となって設立された会社です。その後仁丹体温計(株)、(株)仁丹テルモの称号変更を経て、1974(昭和49年)にテルモ(株)となり、1982年東証二部に上場、1984年東証一部上場となっています。因みに最近の同社の株価は3200〜3400円です。
和地氏は富士銀行(現みずほ銀行)を永年勤め上げられた後、1989年(昭和64年)、当時業績低迷の問題会社となっていたテルモ(株)に常務取締役として迎えられ、その後専務、副社長、社長を勤めて同社を見事に建て直された功労者です。
同氏の講演の表題は『人を大切にして人を動かす』です。講演録のご紹介と申しましても、その全部をご紹介する訳には参りませんので、私が感動を受けた箇所を幾つかご紹介致します。
和地氏がテルモ(株)ヘ行かれた当時、超ワンマン経営者が25年間君臨されていたそうです。結果は危機意識の希薄な、言われたことだけをやる(失敗すればクビになる)チャレンジ精神のない、無気力でありながら尊大な所謂大企業病に完全に染まっていたようです。
赴任されて直ぐに和地氏は『この会社は企業風土が悪いな。』と直感され、企業風土の改革を最重点課題と考えられましたが、その基本理念が表題の『人を大切にして人を動かす』です。
○同じ注射器をアメリカでもベルギーでもフィリッピンでも作っているが、日本の甲府工場で作るものが飛び抜けて高品質だ。同じ全自動なのに何故海外工場と差が出るのか。甲府工場長曰く、
『海外の工場では機械が製品を作っているんですよ。我々は人が機械を使って製品を作っている。物を作ることに愛情を持っている。機械をずっと愛情を持って見ている。そういう志を持ってやっていれば、機械のちょっとした変化にも気がつく。昔の母親は子供を体温計で計る前に、あっ、熱があるなと気がついたものです。愛情があった。我々の工場も同じですよ。これはマニュアルなんかで片付く話ではありませんよ。』
○企業が勝手だなと私が思うのは、駄目な人間だけ放り出して、優秀な人材だけを残そうとする。しかしそれは無理です。駄目なのがどんどん出ていくと、優秀な人まで出ていきますし、落ち着かなくなります。良い人だけ残して悪い人は外へ放り出すという経営手法は、日本の場合そう簡単に通用しないと思います。
○社員が成長することによって会社の業績が伸びるのが、経営の王道だ。圧縮すべきは人件費であって、人ではない。
○人を中心に経営を考える場合、如何に人を動かすか。人を動かそうとする時一番大事なことは、人の心に火をつけること。人の心に火をつけるには、自分自身がまず燃えなければなりません。自分はさておいて『部下が燃えるにはどうしたらよいか』と聞いてくる。それは駄目。まず自分が燃えなければ人に火はつかない。
○アメリカの大統領ニクソンの言葉。
『リーダーは願望ではなくて決意しなさい。決意できるかできないかで、リーダーの資格が決まる。リーダーは自分で決意する。そうすると腹が決まってくる。腹が決まるといろいろな知恵が出てくる。』
リーダーが決意すると、その気持が必ず部下に伝播します。言っても言わなくても伝播します。リーダーが決意せず願望だけだったら、下は動かない。
○組織というのは手段なんだ、目的ではないんだよ。だからどうしても駄目なら組織を変えればよい。組織は放っておくと目的化してしまって、組織にぶら下がる人間、寄りかかる人間が出てきたり、あるいは組織を守ろうとしてきます。私は数年ごとに組織をぶち壊して、寄りかかっている奴をひっくり返すんです。
○経営者として私が最も重視し、また時間をかけて取り組んでいることは、自ら現場に足を運んで、企業風土改革の必要性を直接社員に語り掛けることでした。工場長さえ行かない所へも出かけて行きました。これは体力勝負でしたし、迂遠な方法とも思いました。けれども、実はこれが一番効果があったと今でも思っています。
○企業経営で私が最も大切にしていることは、企業活動の目標となる志です。志として特に重視しているのは、社会的な使命感です。当社の場合、創業以来の理念『医療を通じて社会に貢献する』です。意欲に目標を与えてくれるものが志、社員が意欲を燃やせる志としては、社会的な使命感が最もふさわしいものだと思います。毎年新入社員に言い続けているのは、
『企業は業績が良くなくては生きていけない。しかし、社会に貢献する使命感がなくては存在する資格がない。』
○企業風土の良し悪しが企業経営の基盤であり、人こそが企業風土の中心であり、従って人を大切にして人を動かすことが経営の王道でありましょう。