生活文化づくりのシステムコンダクター片山鉄建株式会社
ek広場
2005年7月20日(357号)

■世界一の金属屋根


40年ばかり前のことだが、ドイツのデユッセルドルフでの屋根メッセ(見本市)を訪れたことがある。デユッセルドルフのメッセ会場は、広大な敷地に多くの展示場が設けられていて、ひと通り見るだけでも丸一日がかりの強行軍であった。当時はまだ日本からの出品は無かった。主にヨーロッパ各地からの出展が多かったように思う。何か目新しいものはないかと隈なく見て回ったが、これという目ぼしい商品には出くわさなかった。
 考えてみると、世界各地の気候風土は夫々みんな異なる。ロンドンで商社の方から聞いた話だが、ここでは1300年前の家に住んでいる人がいると言う。その家は石造りだが、地震が無いから崩れない。石造りだから火災も起きない。1300年間保(も)つ訳だ。パリも石造りが多い。ロサンゼルスでは、屋根に余り関心がない。板を敷いた上に銀紙を貼り付けた屋根を見たことがある。雨が降らないから、こんな屋根でもよいのだ。
 それに引き換えわが日本は、地震はあるわ台風はあるわ雨は多いわの災害天国である。この災害天国で茅葺の屋根は、屋根の傑作だと思う。夏は涼しく冬は暖かく、囲炉裏の煙は外へ抜け、煙の煤が茅葺屋根の腐食を裏面から防いでいる。しかし茅葺屋根を作るには、大変な手間ひまがかかる。大量の茅を乾燥させて保管し、一軒の屋根を葺くのに村人が総出で葺かねばならぬ。大変なコストがかかるのだ。今や日本の傑作たる茅葺屋根は、殆ど見かけられなくなってしまった。
日本の古い瓦屋根は、土をたっぷり載せた上に重い瓦を敷き詰めて、腐食に強い銅線で縛り付けてある。台風で飛ばないための工夫である。台風の多い西日本で瓦屋根は普及している。しかし重い屋根は地震には弱い。阪神大震災で拙宅も全壊したが、瓦は全部ずり落ちてしまった。直後に会った建築技師の従兄弟に、屋根の土と瓦の重さを質問したら、
『暗算で大雑把だが、坪当たり230キログラムぐらいだろう。』
何のことはない、屋根中に小錦関が乗っているようなものだ。これでは地震に揺られたら、ひとたまりもない。
 北海道・東北の積雪地帯では、屋根の上の雪掻きをするためにトタン屋根は欠かせない。今やカラートタンの時代となり、雪国の屋根は色とりどりのカラートタンが使われている。
大正12年(1923年)9月1日突如襲った関東大震災では、地震の被害もさることながら、地震に誘発された火災のために、多くの人命が奪われ家屋が焼失した。この後関東から東海道へかけてトタン屋根が風靡した。当時トタン板は、取り敢えず安直に屋根が葺けることから普及したものと思われる。その後成型加工技術の発達と相俟って、トタン屋根はカラートタンの時代までかなり永い間関東・東海道に普及して来た。
 しかしトタン屋根というと、どうしても安物というイメージが拭えない。トタン屋根は夏日には灼けて暑い。雨音がうるさい。薄くて重厚さがない。さしもの関東・東海道のトタン屋根地域も、次第に瓦に押されているのが実情のようだ。
 これはトタン板に関わるメーカー・加工・流通・施工の各部門全員に、その責任があると思われる。そもそもトタン板なる呼び名もいけない。然らば業者間の正式な呼び名である亜鉛鉄板・カラー鉄板が良いかというと、これも疑問だ。つまり呼び名の問題ではない。
基本に戻ってここでは金属屋根として考えてみよう。広く金属屋根と考えるならば、ステンレスをはじめとする特殊鋼板、ガルバリウムやガルファンなどの特殊めっき鋼板、特殊塗料を施した塗装鋼板等々すべてが金属屋根の対象と考えられる。
 前文にわが国は災害天国であると申し上げた。地震・台風・火災に対して最も強い屋根は、金属屋根を措いて他には無いのだ。この金属屋根の素材を造るメーカーの生産技術、様々な形に加工する加工技術、これを取り扱う流通の能力、施工して仕上げる板金技術、どれ一つ取ってみてもわが国は、世界に冠たる実力を持っていると自負できる。にも拘わらず災害天国でありながら、金属屋根が普及しないのは何故か。
 ずばり言わせて貰おう。業界全体が永年に亘り安物造り競争、安売り競争をした結果なのだ。
素材メーカーの生産技術の高さは言わずもがな。加工技術では既に台風に飛ばない嵌合式成型板技術や粘着板技術も確立されており、釘穴やビス穴を開けないから、屋根の第一条件たる雨漏りの心配は先ず無い。流通の情報交流能力もITの進展と共に急速に進んでいる。そして何より心強いのは、板金施工技術の充実度である。個々の技術に優劣の差があるのは、どの業種・業態を取っても致し方ないことだが、雨の多いわが国の板金施工技術は総じてハイレベルにあると言えよう。板金施工は金属屋根の最後の仕上げであり、仕上げ技術がハイレベルにあることは誠に心強い限りである。
 以上のように金属屋根は、素材を加工し施工して始めて完成する。その間運送を含め夫々専門職の手を煩わせた集大成なのだ。完成した金属屋根は、災害天国のわが国で経験を積み上げた、如何なる災害にもびくともしない世界一の屋根である。当然適正なコストは掛かる。一方自由主義経済下では、競争のあるのも亦当然である。とは言え今までは安易に競争に身を委ねて、安物造り競争、安売り競争に明け暮れて来た結果が、消費者が本当に欲している金属屋根を提供し切れなかった結果となっているのだ。
 消費者は良いものと認めれば、多少高くてもお金を払ってくれることは、種々の事例で明らかである。否、むしろ消費者は値段の多寡に拘わらず、本当に良いものを望んでいるのだ。
 我々金属屋根に携わる業界人は、消費者の真の思いを強く認識し、世界一の金属屋根を適正な価額で提供する誇りと自負心を持って、粘り強く業界を再構築すべきであると思うが、如何であろうか。


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