浜矩子氏(のりこ)氏の講演録『欧州の政治経済情勢』を興味深く読んだ。同氏は一橋大学卒業後、三菱総合研究所入社。1990年から8年半に亘り同社初代ロンドン駐在員事務所長を勤めた欧州通。2002年から同志社大学大学院ビジネス研究科教授になっておられる。
この講演録の内容を一口で言うと、レジュメの副題に「不動の物体と抗(あらが)い難い力」と付せられているように、「欧州は今混沌としている」ようだ。面白い話題をピックアップすると、
『フランス人の頭をぽんぽんと叩くと、「ヨーロッパは政治、ヨーロッパは政治」という響きがしてくる。イギリス人の頭を叩けば「ヨーロッパは経済、ヨーロッパは経済」という音がする。ドイツ人はどうか。西ドイツ時代は、叩けど叩けど何にも音が出てこなかった。物を言わずにひたすら経済大国化を求めてきた。今ドイツ人の頭を叩くと「ヨーロッパは政治、でも経済かもしれない、でもやっぱり政治かもしれない」と、どっちつかずの音が出てくる。政治と経済の綱引きもまた「不動の物体と抗い難い力の相剋」と言える。』
『融合が進めば進むほど、排除の論理を生むことになる。隣の家のお嬢さんである限り、凄く優しくし可愛がって面倒を見てあげられる人が、今日からうちの嫁となったら、一転していびりの対象になる。』
『融合が如何に排除の論理を生むかの典型例は、今日の統一ドイツです。BBCテレビが統一ドイツ10周年特集を企画して、ベルリン市民から感想を聞いて廻った。ある東ドイツ出身の女性が何と言ったか。「もし今一度壁を建て直して貰えるのであれば、今度はもっと高くもっと厚くして、簡単に壊れない壁を是非造って貰いたい」旧西ドイツの人達は「ああいう効率の悪いやつらのために、いくら自分達が働いても、やつらに貢ぐだけじゃないか。あいつらは何だ!」旧東ドイツの人達は「統一後10年も経っているのに、未だ西ドイツの人達は我々を二流市民扱いする、差別する。全くたまらん。もう一度、壁を」ということになってしまっている。』
この講演の中で面白い論文が紹介されている。ブラッセル自由大学のアンドレ・サピアという学者の「4つの欧州型モデル」(クリック)である。
右上の北欧型が上の上
左上のアングロサクソン型が上
右下の大陸型が下
左下の地中海型が下の下
という分類である。
さまざまな社会現象を、効率と平等性の高低だけで判断する論法には、賛否両論、批判・異論続出は当然ながら、非常に面白い恰好の整理であり、日本がこれからどうなっていくのかを考える時に、面白い切り口として使えるかもしれないと浜女史。日本はかつて行け行けどんどんの高度成長期には、北欧型のところにいた。その後バブル崩壊で下の方に行って大陸型になり、最近やっと経済効率は高まってきたけれども平等性は低下してきている、即ちアングロサクソン型となる。
浜氏の言う「不動の物体と抗い難い力の相剋」あるいは「融合が排除の論理を生む」は、何も今に始まったことではない。むしろ人類の歴史はこの相剋の歴史であるとも言える。唯夫々の時代背景はすべて全く異なる。そして21世紀を迎えては、政治、経済、金融、社会、何を取ってみても世界中が未知の構造に突っ込んで、恰も夫々の国々が海図なき航海に船出して、手探りでうろうろしている姿が目に映る。特に日本は急激な少子高齢化社会に突入しており、猶更難しい局面にある。将に混沌の21世紀の船出である。
だから面白い。だから興味が湧く。混沌というのは、誰も先が読めない。従って多分変化の連続となるだろう。変化が起こるところには、必ずチャンスが生まれる。混沌の21世紀を満喫できる若い人達が羨ましいぜ。